更年期障害
更年期障害とは
更年期とは、医学的には「卵巣の機能が衰え始め、最終的にその機能が停止する時期」とされています。
日本人の閉経の平均は51〜52歳とされていますが、その閉経の前後5年ずつ合計10年くらいを更年期と呼んでいます。しかし、閉経する年齢は、42歳頃〜57歳頃まで幅広いため、更年期の期間は人により大きくずれてきます。
更年期障害とは、この時期に起こる生理的な変化によって引き起こされるさまざまな心身の不調のことです。卵巣機能の低下によりエストロゲン(女性ホルモン)が急激に減少することで、多くの障害が現れます。
つまり更年期症状は、「エストロゲンが減少することで起こる自律神経失調症」ともいえます。
更年期を境に、エストロゲン低下が原因となる重篤な病気も増加します。エストロゲンは骨・血管・脳に働きかけて機能を維持しているため、その低下により骨粗しょう症・動脈硬化・脳梗塞・心筋梗塞・認知症・アルツハイマーなどのリスクが高まります。
2024年の日本女性の平均寿命は87.13歳になりました。
人生100年時代はもう目の前です。そうなると、仮に50歳で閉経しても「まだ人生の折り返し地点でしかない」ということになります。折り返したばかりでこれから先長い人生を、女性ホルモンのサポートなしに乗り越えていけるのでしょうか。だからこそ、更年期障害の治療には「今の症状を緩和すること」と「将来の重篤な疾患を予防すること」、この二つの側面が求められます。
Symptoms
更年期の主な症状

症状は多岐にわたり、個人差も大きいのが特徴です。
| 血管運動神経系 | ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)・動悸・異常な発汗・冷え |
| 知覚系・運動器系 | しびれ・腰痛・肩こり・関節痛 |
| 精神神経系 | 頭痛・めまい・耳鳴り・不眠・不安・憂うつ・イライラ・集中力低下・記憶力低下 |
| 消化器系 | 悪心・嘔吐・食欲不振・便秘 |
| 外分泌系 | 口腔や外陰部の乾燥感・しわ・たるみ |
| 泌尿器系・生殖器系 | 頻尿・排尿時痛・尿失禁・外陰部のかゆみ・不正出血・性交痛 |
| その他 | 全身倦怠感・腹痛・むくみ |
症状が出るタイミングにも個人差があります。閉経前後に現れる自律神経症状に続き、数年後に泌尿生殖器の障害、さらに約10年後に骨粗しょう症・高脂血症が現れることがあります。自覚症状が出る前に定期検査を受けることが重要です。
Treatment
更年期障害の治療
症状・体質・ライフスタイルに合わせて、最適な治療法を組み合わせてご提案します。
ホルモン補充療法(HRT)
不足しているエストロゲンを補う最も効果的な治療法。ホットフラッシュ・発汗・骨粗しょう症予防に高い効果があります。飲み薬・貼り薬・塗り薬など剤形が豊富で、ライフスタイルに合わせて選択できます。
漢方療法
「当帰芍薬散」「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」など、体質や症状に合わせた漢方薬を処方します。HRTが使えない方や、体に優しい治療から始めたい方にもおすすめです。
プラセンタ療法
更年期障害と診断された方には、保険適応のあるプラセンタ注射「メルスモン」を行うことができます。毎日または隔日(週3回以上を目安)投与します。
精神安定剤・抗うつ薬
イライラ・不眠・不安・気分の落ち込みなど精神症状が強い場合に、必要に応じて処方します。症状の程度に合わせて少量から調整します。
エクオール
大豆イソフラボンが更年期に良いというのは有名でしたが、実は、イソフラボンは、腸内である種の腸内細菌の働きにより分解されてエクオールを生じ、そのエクオールが更年期症状に有効なのだということがわかりました。その細菌がいない人は、エクオールが作られないためイソフラボンを食べても効果がありません。エクオール閉経後10年以上経ってからのHRT開始はかえってリスクを高める可能性があることがわかっています。
保険適応プラセンタ注射(メルスモン)の費用 ※3割負担・皮下注射1回1本の場合
| 診察料金 | 注射料金 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 初診 | 850円 | 120円 | 970円 |
| 再診 | 380円 | 120円 | 500円 |
About HRT
ホルモン補充療法(HRT)について
HRTの効果とタイミング
HRTは高脂血症・動脈硬化・骨粗しょう症・認知症などの予防効果が期待できます。一方で、閉経後10年以上たって動脈硬化がすでに進んでいるような方の場合には、かえって、心筋梗塞などのリスクが高まる可能性があるといわれています。できれば閉経前後2〜5年以内に開始するのが望ましいとされています。
WHOの最近の報告では長期間のHRTによる乳がんのリスクの上昇は軽微であり、他の生活習慣の影響などと比べて高いものではないとされています。定期的な検査を行い、適切な管理の下では、HRTを行う期間や年齢に特に制限はないとされています。
しかし、いつまで治療を継続するのが適切なのかは一人一人異なるため、主治医としっかり相談しながら納得して治療を受けることが重要です。
適切なタイミングで開始し、十分な検査と管理のもと、必要最低限の量・期間で行うことが重要です。最適な量は個人差があり、一人ひとりに合わせてきめ細かく決定していきます。
子宮の有無による使い分け
子宮がある方にはエストロゲンとプロゲステロンの併用療法、子宮を切除している方にはエストロゲン単独療法が基本です。また、生理の有無や閉経からの期間によって、周期的投与と連続投与を使い分けます。
エストロゲン(卵胞ホルモン)製剤
| 投与経路 | 薬剤名 | 成分 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 経口 | ジュリナ錠 | エチニルエストラジオール | 生理活性の最も高いE2の純度100%。少量から用量調節が可能。中性脂肪を上げにくい。 |
| 経口 | プレマリン錠 | エストロン・エクイリンなど結合型 | 歴史ある卵胞ホルモン薬。効果が安定しており価格が安い。 長期間の服用で血栓症や中性脂肪上昇のリスクがある。 |
| 貼り薬 | エストラーナ | エストラジオール 0.72mg/0.36mg | 貼付剤で唯一、閉経後骨粗しょう症の適応を持つ。2日ごとに貼り替え。 |
| 塗り薬 | ディビゲル | エストラジオール 1mg | 1包ずつ個装された使い切りタイプ。太もも・下腹部に塗布。携帯に便利。 |
| 塗り薬 | ルエストロジェル | エストラジオール 0.54mg | ボトルからプッシュして腕に塗布。かぶれにくく使用感が良い。投与量調節も可能。 |
経皮吸収剤(貼り薬・塗り薬)は、肝臓を通さず直接血管に取り込まれるため、中性脂肪の上昇や血栓症リスクがほとんどないとされています。パッチでかぶれる方にはジェル剤がおすすめです。
黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤
| 投与経路 | 薬剤名 | 成分 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 経口 | エフメノ | プロゲステロン(天然型) | 日本初の天然型黄体ホルモン製剤。乳がんリスクが最も低いとされる。就寝直前に服用。当院では第一選択としてお勧め。 |
| 経口 | デュファストン | ジドロゲステロン(天然型に近い合成型) | 天然の黄体ホルモンに最も近い合成型。乳がんリスクが低く副作用も少ない。 |
| 経口 | プロベラ/ヒスロン | メドロキシプロゲステロン(合成型) | 中性脂肪を上げにくい。月経異常・不妊症などの適応もある。 長期間の服用により乳がん発症リスクの上昇が認められている。 |
合剤(エストロゲン+黄体ホルモン)
| 投与経路 | 薬剤名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 経口 | ウェールナラ錠 | 1日1錠服用するだけ。他の薬剤と併用する煩雑さがない。保険適応は「閉経後骨粗しょう症」。 |
| 貼り薬 | メノエイドコンビパッチ | エストラジオール+ノルエチステロンの合剤パッチ。3〜4日ごとに下腹部に貼るだけ。1枚で2種類のホルモンを補充。 |
IUS(ミレーナ)のHRTへの活用
ミレーナは子宮内に装着するデバイスで、持続的に黄体ホルモン(レボノルゲストレル)を放出し、子宮内膜を薄い状態に維持します。日本では避妊システムとして認可されていますが、HRTのプロゲスチンとして利用する方法もあります。
一度装着すれば5年間有効なため、日々の服薬はエストロゲン製剤のみで済み、管理がシンプルになります。ただし保険適応外となるため、費用面でのご相談も含め、診察時にお気軽にご質問ください。
GSM
GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)について
更年期以降、エストロゲン(女性ホルモン)の減少にともなって、腟や尿のトラブルがあらわれることがあります。これをGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)と呼びます。「年齢のせい」とあきらめず、気になる症状はご相談ください。
GSMの主な症状
GSMは、性器症状・性交症状・尿路症状の3つが主な症状です。
エストロゲンが減少すると、腟に含まれる水分が減って潤いを失い、コラーゲン繊維も減少するため、腟の粘膜の形態と分泌が悪くなり、性交痛の原因となります。また、腟を正常に保つ乳酸桿菌(ラクトバチラス)がいなくなり、無菌の状態か、他の雑菌類が増えやすくなります。
| 性器症状 | 腟からの不正出血、腟・外陰部の乾燥感、痛み、かゆみ、灼熱感、におい、ゆるみ など |
| 性交症状 | 性交痛、潤いの減少、性感の減弱、性交後出血 など |
| 尿路症状 | 排尿障害、頻尿・頻尿感、尿失禁、膀胱炎を繰り返しやすい など |
多くの女性に関わる症状です
44.9
%
いずれかの症状を訴えた女性は、半数近くの44.9%に上り、女性のヘルスケアの観点からも看過できない問題です。
尿路症状や性交症状は、性器症状よりも頻度が高いという実態が浮かび上がってきました。尿もれの悩みが最も多いという結果に、うなずかれる方も少なくないと思います。
それぞれの症状・病態は、一つに限らず複数みられたり、それぞれが原因と結果になっていたりします。たとえば、外陰部痛や違和感などの性器症状があると、頻尿感などの尿路症状が増えると報告されています(二宮ら、2020※)。とても複雑で、また諸症状は進行性で、だんだんと悪化してしまいます。
※出典:二宮典子、関口由紀「最新女性医療」2020年2月 7巻1号 20-23
治療法
エストロゲンの腟錠や内服剤、またはホルモン補充療法(HRT)を行います。ただし、もともと血流が減少してしまった腟への効果は、限定的である可能性があります。
気になる症状があれば、我慢せずご相談ください。症状やご希望に合わせて、治療法をご提案します。
尿もれ・頻尿が気になる方は骨盤底筋ケア(フェミゾンDR)、そのほかの婦人科のお悩みは婦人科一般もあわせてご覧ください。
Flow
診察の流れ
1
問診
症状の内容・始まった時期・生理の状況・生活習慣・既往症などをお伺いします。気になることは何でもお話しください。
2
血液検査
ホルモン値(FSH・LH・エストロゲン)を測定し、更年期かどうか・進行度を確認します。必要に応じて骨密度・脂質・血糖なども調べます。
3
超音波検査(必要に応じて)
子宮・卵巣の状態を確認します。HRT開始前の子宮内膜の状態チェックにも活用します。
4
診断・治療方針のご説明
検査結果と症状・体質・ご希望をふまえ、最適な治療法をわかりやすくご説明します。疑問や不安はその場でご確認いただけます。
つらい症状は、我慢しないでください。
更年期障害は、適切な治療で楽になれます。
「年のせい」とあきらめず、まずはご相談ください。
一人ひとりに合った治療法を一緒に考えます。
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